工程管理研究所
- 業務改善
- 2024.8.23
製造業の脱Excel(エクセル)は必要?システム化すべき業務とステップを解説
Excelは手軽で利用方法が明快なうえ、汎用性が高いため、製造業を含め様々な業種・企業で利用されています。
一方で「脱Excel」の必要性も指摘されており、DXを推進する上でExcel管理からシステム管理への移行を課題としている企業も多いでしょう。
本記事では、製造業における脱Excelの必要性や、システム化すべき業務、脱Excelを実現するステップを解説します。
製造業におけるExcelの利用状況
昨今において、製造業では様々な業務でExcelが利用されています。以下が業務の一例です。
業務 | 用途 |
---|---|
計画表・日程表の作成 | 生産スケジュールや日程の管理 |
作業手順書の作成 | 製品の製造手順やトラブル対応手順の作成 |
作業実績・工数の管理 | 日々の作業実績・工数の管理・集計 |
品質記録の管理 | 品質管理や測定結果の管理 |
計画表・日程表の作成
Excelは、生産スケジュールや日程の管理などに利用されています。
例えば、各製造ラインの生産計画や工程計画をExcelで作成・管理しているケースがあります。
Excelのグラフ機能を活用して、進捗状況やリソースの配分を視覚的に把握することも可能です。
作業手順書の作成
製品の製造手順やトラブル対応手順をExcelで作成し、管理しているケースも多く見られます。
標準作業手順書をExcelで作成し、各工程で参照することで、作業の一貫性と効率を保つことができます。
Excelを活用すれば、簡単に手順書を作成・更新し、共有することも可能です。
作業実績・工数の管理
日々の作業実績や工数の管理・集計にもExcelが利用されています。
各工程の作業実績や進捗状況、工数データを手入力し、実績を記録することで、全体の生産性を把握することが可能です。
品質記録の管理
品質管理や測定結果の管理にもExcelが使用されています。
製品の検査データをExcelに入力し、品質管理レポートを作成することで、不良品の発生状況を把握でき、改善策立案の参考にすることが可能です。
製造業で脱Excelが求められる理由
Excelは汎用性が高く、非常に便利なアプリケーションであるため、前章で解説した通り様々な業務・用途で活用されています。
また、ライセンスさえ購入していれば様々な用途で活用できるため、コスト面でも優れています。
しかし、以下に挙げるようなExcelを活用した際の課題も多く、「脱Excel」が必要であると指摘されています。
- 計画の精度が低くなる
- ファイルの管理が煩雑
- データ転記の必要性
- データの一貫性担保が困難
- リアルタイムでの製造工程管理ができない
- ヒューマンエラーが発生しやすい
- 業務属人化の可能性
それぞれの理由を解説します。
計画の精度が低くなる
Excelで作成された工程表は、日単位での作業スケジュールやリードタイムをExcelのマスで表現することが多く、細かな調整が困難です。これにより、各作業の具体的な工数見積もりが行われないまま、計画が立てられるケースがあります。
また、Excelでは複雑なロジックを組み込んだ工程管理が難しく、結果として工程表は担当者の経験と勘に依存した単なるイメージにとどまってしまいます。これにより、計画の信頼性が低下し、全体の工期の短縮や効率的な管理が困難になります。
さらに、Excelで作成された線表には、リードタイムに大幅なバッファーが持たされることがよくあります。
バッファーの設定は、予期せぬ遅延やトラブルに備えるためですが、過剰なバッファー設定は全体のリードタイムを増加させる原因となるでしょう。
これらが計画の精度が低くなりがちな理由です。
ファイルの管理が煩雑
Excelはファイル単位で作成されるため、独立したファイルの管理が煩雑であるという問題もあります。
工程や業務ごとに作業フォルダが分かれているケースが多く、作業手順書のファイルも分散されて保管されるケースが大半です。
特にトラブル対応手順書など、迅速な対応が求められる手順書の場所が周知されていない場合、トラブル対応が遅れてしまう可能性があります。
また、変更履歴の管理が難しく、作業ごとの最新の手順書がどこに保管されているか分からなくなることもあります。
このように、Excelはファイル単位で作成されるという特徴を持つため、管理が煩雑となります。
データ転記の必要性
Excelでは、Excelファイル間やシステム間で、データの転記作業が必要となります。
先述の通り、Excelは業務単位や作業単位で独立管理されるケースが大半です。最終的にはデータを一元管理するために、データの転記作業が発生します。
例えば、工程ごとに日々の作業実績や工数の入力・管理をExcelで行っている場合、生産管理・工程管理部門の担当者は、各工程のExcelファイルデータを基幹システムへ入力したり、一つのExcelファイルにまとめる作業が発生します。
データ転記において、無駄な工数が発生することはもちろん、転記漏れやデータ重複が発生しやすいという点も大きな問題です。
これにより、データの整合性や正確性を担保できず、正確な意思決定やデータ分析ができなくなります。
データの一貫性担保が困難
Excelはファイルベースで独立管理されているため、一貫したデータ管理が難しいという特徴があります。
Excelは業務単位でファイルが作成されるため、業務をまたいでデータの一貫性を担保することが困難です。
さらに同一業務であっても、同一コードや同一名称を半角、全角など異なる値でデータを入力しているケースがあり、データとしての整合性がとれず、その後のデータ処理での集計や分析が正確に行えない等の大きな問題もあります。
例えば、品質管理記録のExcelについてフォーマットを変更した際、新旧フォーマットで記録される情報が異なり、データの一貫性がなくなります。
このようにExcelでは、データの一貫性担保が困難であるという大きな問題があります。
リアルタイムでの製造工程管理ができない
Excelでは、リアルタイムでの製造工程管理ができないことも、脱Excelが必要と言われる理由の一つです。
Excelでリアルタイムに工程管理を実施するには、各製造工程の近くのパソコンでExcelを開き、データを入力する必要があります。
これが困難な企業では一定時間ごとに、データ入力処理をまとめて行うケースが大半です。
また、一つのExcelファイルを複数人で同時編集する場合、以下のような懸念点が発生します。
- 変更がリアルタイムで表示されない
- 複数の人が同じ場所に別の内容を入力してしまう
なので、Excelは製造工程のモニタリングには向いていません。
リアルタイムな情報が必要な製造業では、進捗や実績の入力は、Excelファイルへ作業時間を入力したり、開始や終了の日時を入力するのではなく、スマートデバイスやハンディターミナル等で1クリックで簡潔に入力が行える仕組みを構築するなど、効率的なシステム管理が求められます。
ヒューマンエラーが発生しやすい
Excelでは入力ミスや計算ミス、誤操作などのヒューマンエラーが発生した場合でも、入力した時点では気が付かないため、データとしての整合性が担保されない可能性があります。
特にデータをまとめて入力しようとすると、記憶違いや入力漏れから、実態との乖離が発生しがちです。
入力規則を厳密に設定したり、フォーマットを統一したりしていても、誤操作によるファイルやデータ内容の破損を完全には防げません。
ヒューマンエラーが発生しやすいExcelは、基幹業務の正確な管理が困難と言えます。
業務属人化の可能性
工程管理をExcelで実施していると、そのExcel管理が属人化してしまう可能性があります。
Excel管理に様々な課題があるとはいえ、複雑な計算式やVBAなどを活用すれば、大幅な業務効率化が可能です。
しかしこれらの設定には専門性が必要であり、管理していた従業員が離職や長期休暇で現場を離れると、Excelファイルの管理が困難となる恐れがあります。
このような業務属人化を避けるという観点でも、製造業での脱Excelは非常に重要です。
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製造業で脱Excelを実現するステップ
これまで解説した通り、Excel管理には様々な問題があり、重要な管理業務ほど脱Excelの必要性は高まります。
そこで最後に、製造業で脱Excelを実現する以下3つのステップを解説します。
- Excel業務の洗い出し
- 脱Excelの必要性を判断する
- システムの調査・選定
STEP1:Excel業務の洗い出し
まずは、脱Excelを実現したい業務の洗い出しを行いましょう。
現場や間接部門を問わず、現在業務で活用しているExcelを洗い出し、内容や用途を調査します。
また、Excel業務での課題や問題点、入力・管理にかかる工数もリスト化しておきましょう。
この際、対象業務の管理者だけでなく、実際にExcelを活用している担当者を交えつつ、業務の重要度を評価することが大切です。
STEP2:脱Excelの必要性を判断する
続いて、洗い出したExcel業務のうち、脱Excelが必要な業務を判断します。
特に、以下のような特徴を持つ業務は、脱Excelを目指すべきでしょう。
- 業務の重要性が高い
- 複雑な関数・機能・フォーマットで運用されている
- Excelの入力・管理工数が大きい
- 管理しているデータ量が多い
STEP3:システムの調査・選定
脱Excelが必要と判断した業務について、移行先システムの調査・選定を行います。
必要な機能に加え、操作性や他システムとの連携可否など、システムに求める要件を詳細に洗い出しましょう。
そして要件に合致するシステムを調査し、候補をリストアップします。
リストアップしたシステムについて、可能な限りデモを活用し、自社の業務に実際にフィットするかどうかを事前に試しましょう。
また、システム選定時は以下のポイントも確認が必要です。
- 導入・運用コスト
- ベンダー企業のサポート体制
コスト面はもちろん、システムの使い方がわからない場合や、不具合が発生した場合のサポート体制も重要となります。
これらのポイントを総合的に判断し、導入するシステムを選定することが重要です。
まとめ
Excelはファイルベースで管理されるという特徴を持つため、管理が煩雑になることやデータ転記が必要となること、一貫性の担保が困難であることが大きな問題です。
また、データやフォーマットが壊れる恐れがあることや、業務が属人化してしまう可能性があります。
脱Excelを実現するには、Excel業務を洗い出したうえで脱Excelの必要性を判断し、優先順位の高い業務から移行先システムを選定することが求められます。
Excel業務に限界を感じている企業は、本記事を参考にして、脱Excelを実現しましょう。