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テクニカルコンサルタント荒井善之の 工程管理で製造現場を強くする技術マネジメント講座 Vol.2 ~工程管理と切り離せない設計データ~
  • 工程管理で製造現場を強くする技術マネジメント講座
  • 2026.3.26

テクニカルコンサルタント荒井善之の 工程管理で製造現場を強くする技術マネジメント講座 Vol.2 ~工程管理と切り離せない設計データ~

前回は「設計データの整備は工程管理の近道」と題して設計データの整備が工程管理を進めるうえでいかに重要か事例をもって確認しました。今回は逆の視線、設計者の視座で工程管理を見たいと思います。と言ってみたものの設計者は工程管理を意識して設計を行っているのでしょうか。

工程管理の盲点 ― 設計工程がリードタイムを圧迫する

多くの製造業では工程管理のボトルネックは製造現場にあると信じられてきました。(今もそうかもしれません)これは繰り返し生産などの企業ではいまだに正しいでしょう。設計と仕様が決まっていて同じ材料を投入し加工を繰り返す場合、工程管理の仕事はほぼ製造現場のスケジュールが対象となります。

ですが多くの受注生産企業や、顧客からの個別性が高い注文が多くなることで個別受注に近くなってきた量産企業も、自社の製造現場以外でリードタイムの多くを消費してしまい製造現場だけで時間(=納期)をコントロールできなくなってきていると思われます。なぜでしょうか?

前職(個別受注型)の例で言えば受注・着手から完了・納品までのリードタイム(総時間)とバッファータイム(余裕時間)を見たときに設計業務がいつの間にかバッファーを食べ尽くすことが多くありました、しかもその状態が見えないのです。背景としては顧客からの要求が細かくなってきたこと、高騰する材料費を抑えるために新たな手法を考察する、そもそも設計の外注比率が高い業界では更に工数が読めません。そのため担当者は自身の担当物件に対して確認・連絡・調整に多くの時間を費やしていき、コミュニケーションに手間を取られ更に遅れていく…。悪循環です。このように全体的なスケジュールを立てていてもスケジュールは崩れていくのです、いつものように。

設計業務のスケジュール管理を難しくする4つの要因

オフィスワークの特に設計業務においてスケジュール維持を困難にする理由は今までの経験から大きく4つあると考えています。

  • 設計業務を数値で管理しにくい
  • 外部に依存するプロセスがある
  • 手戻りのリスクがある
  • 他部署と係るスケジュールの責任所在が見えない

それぞれ具体的に見ていきましょう。

1. 設計業務を数値で管理しにくい

なぜ設計業務は数値で管理しにくいのでしょうか?「いやいや図面完了日はチェックしていますよ(遅れていますが)」「個人別の図面作成数も把握できていますよ(3Dであれば図面枚数に意味はないかも)」これらの数値は工程管理で読むべき「時間」でしょうか。確かに図面完了日のチェックは重要ですが完了予定日を過ぎていては意味がありません。個人別の図面作成枚数の把握は個人の能力を指標化するには重要な数字ですが時間ではありません。設計業務の完了予定日をスケジュールしても、その日になって「終わりませんでした」では予定日を設定した意味がありませんし、バッファーがいくらあっても足りません。逆に製造現場では製造品の数量や機械のカウンターや加工速度から「時間」を読むことが容易であり業務上必然の作業のため数値で管理され易いのです。

2. 外部に依存するプロセスがある

前職(個別受注型)の業界では設計を外注に出すことが広く行われていました。また部品調達はもちろん製造の一部を外にお願いすることは一般的に行われています。外注先が安ければ外注する、特殊な業務・加工なので外注する、顧客から求められる3D設計データを自社で対応できないので外注する。

このような外に出た工程はなかなか中身が見えません、外注先からすれば自社の製造工程やノウハウを公開するはずはないのです。もちろんスケジュールも見えません(正しく納品される作業はもちろんあります)。この外へ出た工程が受注から納品までの全工期において仮に20%も占めていたら管理したいはずです。10%進んだのか、予定通りに納品されるのか、やはり確認・連絡・調整に多くの時間を割くことになります。

その中でも外部に依存するプロセスの中で最も読めなかったのが顧客による設計図面の検図でした。製造に入る前に顧客によるチェックを受けOKをもらうことで製造に入る保証としていました、製造業では一般的な慣習だと思います。またこの工程を通過するかしないで売上計上のチェックポイントともなるので重要な工程です、しかし検図のチェックが即座にOKとなるケースはほぼなく、5日後、10日後にようやくGOサインが出ます。「検図日までに提出を」と言っていたわりにはリターンは遅く、全体の納期を伸ばしてくれるわけでもないのです(愚痴です)。最近は3D設計の普及によって2D図面に比べて検図の時間は短くなってきていますが、まだまだ見えない時間です。検図対策については今後のコラムで記したいと思います。

3. 手戻りのリスクがある

検図結果のリターンまで設計者は他の設計を行うこととなりますが、全体の納期が延びるわけでもないので進めたい業務は先に進めます、納期を守るために意図したリスクテークです。納期が長い部品の先行手配や(母材が鋳物の場合は納期が数か月の場合も)、製造向けの指図書の作成など進めます。ところが突然に顧客から仕様変更の連絡が入り、それまでの作業がムダになるというケースが時折発生します。常にリスクを抱えているのです。納期で見たときに2D設計時代の手戻りは致命的でしたが、3D設計(パラメトリック設計)になってからは時間を吸収できるようになってきました。とは言え手戻りは無駄な作業です。

4. 他部署と係るスケジュールの責任所在が見えない

製造業においての部門、営業・設計・調達・製造・品管・測定・生技と幾つもの部門をまたいで製造は進んでいきます。同一工場内でも製品の状況や加工進捗が見えにくいと言われ、ましてや生産拠点が分散している、外注に出しているとなると進捗確認の会議が何回あっても足りないのは想像できます。大きなトラブルが起きたときに、どのように対処し、代わりにどの作業を遅らせるのか、調整は誰がやるのか、恐らくは工場長が取りまとめるのかもしれませんし、生産技術が調整するのかもしれません。いずれにしろ調整者はトラブル内容の確認と対処方法の立案、それによる納期への影響、他製品のスケジュールに及ぼす影響と対策などを考慮するための情報を集めるため、製造工場の中を(場合によっては顧客との交渉も)駆け回ることとなります。

社長が製造現場の親方を兼ねている中小企業はスケジュール管理も社長が行っており事務所のホワイトボードを見れば製造進捗や購買や外注など主要な情報は一目で確認できますが、その情報も社長が製造工場を駆け回って集めていることに変わりはありません。工場が小さいか大きいか拠点が幾つもあるかの違いであって情報を集めることには変わりはないのです。

設計工程のスケジュール遅延を防ぐ3つの対策

ここまで設計業務においてスケジュール維持を困難にする4つの理由があると述べてきました。この対処方法として次の3つを挙げたいと思います。

1. 工程に対する実績データを管理する

いずれの製造業でもコストを測るため案件別の実績データは集めていますが納期実績(時間)を集めているという話はあまり耳にしません。非常に悪いケースの時に遡って確認しているケースが多いのではないでしょうか。期が変わると更に確認できなくなります。

工程単位の実績を常日頃からリアルタイムで入力できる仕組みを構築できていればデータを探して集計することもなくなります。ポイントは工程を定義することです。工程として外注作業も定義することでスケジュールの対象とします、そもそも自社内で行える作業であれば工程の一つであるはずです、外に出たからと言ってブラックボックスにする必要はありません。設計も同様です。設計完了後に作成されるM-BOMによって製造に関わる工程は定義されます。しかし設計の工程を製造工程の粒度と合わせ定義できているでしょうか。設計開始と完了くらいは定義管理しているかもしれませんが、計画の完了日になって進捗率50%ですと言われてもバッファーはいくらあっても足りません。完了の前段階で任意の工程を設け実績データを管理することで「1. 設計業務を数値で管理しにくい」「2. 外部に依存するプロセスがある」に対処できます。

2. スケジュールに対する計画・実績・見込みを管理する

新規作業に入る際には実行可能な計画を立てたつもりでも、もろもろの理由から計画は乖離していきます。計画が外れてくると下流工程部門では自部門の作業を管理するために計画の修正を行っていないでしょうか。しかも自部門の都合を優先して。計画を現実に合わせ続けると当たり前ですがいつも現実と合った計画しか見えなくなり全体像を無視した計画修正を行うことになってしまいます。計画はできるだけ残して、現実と対比できるようにしておかないと計画立案の改善につながりません。そこで見込日を使い現実の遅れから推定すると完了はいつになるのかという予測値を設定し全部門で共有します。これにより「3. 手戻りのリスクがある」に対処できます。

3. スケジュールを管理する担当者を置く

「4. 他部署と係るスケジュールの責任所在が見えない」の解決には全ての受注案件の計画と実績とトラブルを頭に入れて指示が出せる中小企業の社長がいれば良いのです。ただし全ての情報を探しまわることなく机上に置ける仕組みが前提です。多くの製造業では何度も行われる進捗会議のなかで情報の確認と指示を出していると思いますが指示を出す者は生産管理部でも工場長でも良いのです、ポイントは全製造工程における計画と実績をリアルタイムに確認し判断できる仕組みを構築すること、その基礎となるものが工程定義=BOPを標準化し実績をデータ化することです。

品質とコストの8割を決める設計工程

前回のコラムで「製造業では、製品の品質コストの8割は、設計段階で決まる(出典:2020年版「ものづくり白書」)」ことを示しました。

図:2020年版「ものづくり白書」図132-1

図は仕様変更の自由度と品質・コストの確定度を示したもので、設計開発が進むにつれて仕様変更の自由度は低下し、設計開発が完了した後の仕様変更の余地は極めて限定されることを示しています。

一方で同「ものづくり白書」のアンケートでは約4割の企業が製品設計力の向上があったと回答しており、その要因として「生産技術、製造、調達などの他部門との連携強化」と回答しています。では連携強化のキモは何でしょうか?ITベンダーであれば「PLMシステムの導入」と答えたくなりますが、道具を入れただけでは合格点ではありません、先のスケジュール維持を困難にする4つの理由と3つの解決策でも話した通り、全工程における一気通貫の工程の定義と管理がキモであり、この定義なくしてPLMシステムの導入成功はあり得ません。

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まとめ

製造業において工程管理を司る部署は一般的に「工程管理部」や「生産管理部」と呼ばれます。多くの製造業で彼らは設計の後段階に位置し設計が完了した後に工程管理部による「製造現場」の管理が始まります。しかし先に述べたとおり工程管理をより効率的に進めていくために、そしてQCDの最適化を図り効率的な製造を行うために、全工程における工程の定義と設計データの整備(標準化)は重要な役割を果たしています。製造の着手時に必要な全てのモノと情報が揃っていれば生産性は上がります。

本コラム冒頭で「設計者は工程管理を意識して設計を行っているのでしょうか」と問うた答えはNOでしょう。しかし製造に必要なモノと情報(ここでは工程)を、必要なタイミングで提供できる部門は設計です。この設計で作られるモノと情報を手作業で作っていては意味がありません、自動化の工夫が必要ですがこのテーマは今後のコラムで記したいと思います。

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