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テクニカルコンサルタント荒井善之の 工程管理で製造現場を強くする技術マネジメント講座 Vol.4 ~なぜ製造業の現場はリアルタイムな進捗が判らないのか?~
  • 工程管理で製造現場を強くする技術マネジメント講座
  • 2026.10.20

テクニカルコンサルタント荒井善之の 工程管理で製造現場を強くする技術マネジメント講座 Vol.4 ~なぜ製造業の現場はリアルタイムな進捗が判らないのか?~

製造業の現場で「いま、何が、どこまで進んでいるのか」をリアルタイムに把握することは、実は非常に難しいと言われています。多くの企業がデジタル化を進めているにもかかわらず必要なデータは集まって来ません。その根本的な理由は「現場で発生する情報が紙やExcel、個人の管理ファイルなどに分散し、リアルタイムで共有・活用できていないことにある」と一般的には言われていると思います。しかしそれだけが原因ではないと筆者は考えています。

進捗に関わるデータは集めているつもり

読者の製造現場では「いま、何が、どこまで進んでいるのか」の情報を集めるために、どの様な方法・道具を用いているでしょうか。日報もしくは作業記録表が多いのではないでしょうか。そもそも「日報を収集しているから進捗は判っている」とも耳にしますが、それは本当に正しいデータでしょうか。いや、恐らくは正しく入力されたデータでしょう。ではなぜ進捗が分からない状況となるのでしょうか。原因を五つの壁で考察してみたいと思います。

リアルタイムな進捗確認を阻む五つの壁

原因1:アナログの壁

製造現場では今もなお、多くの業務が紙やExcelを中心に運用されています。作業指示書は紙で配布され、作業の着手・完了や製造個数は手書きで記録し、その後Excelに転記して更に生産管理システムに受け渡し集計する。こうした運用は長年続いてきたものであり一見すると大きな問題がないように見えます。しかし、この「転記する」というプロセスはリアルタイム性を根本から奪っています。作業実績を紙に記録し、後からExcelへ転記する運用では、情報が集計されるまで現場の状況を正確に把握できません。そもそも人間は物事を効率よく忘れる動物です。帰宅直前に「あの時間にどんな作業をやっていたかな」などと思い出して入力していては正しい情報にはなり得ませんし、リアルタイム性どころの話ではありません。これはリアルタイム性を放棄すると共に正確性も放棄している状況です。さらに転記作業や複数ファイルでの管理が発生することで、入力ミスや情報のズレも生じやすくなります。

原因2:属人化の壁

製造現場の進捗状況を確認するには現場事務所のホワイトボードを見に行くことが一番速いかもしれません。そこには製番に対して時間軸の矢印が記入されておりトラブル状況などもメモされています。もしくは同様の情報を現場リーダーがExcelでメモしているかもしれませんし、中小製造業の現場では親方(=社長の場合も)の頭の中かもしれません。いずれの情報もリアルタイム性は無いし情報更新がルール化されていなければ「属人化」が進んでしまい、担当者が不在の場合に誰も状況が分からず、業務が滞るリスクは日増しに高くなって行きます。

原因3:データが「取れない」壁

この壁は二つあります。一つ目は製造設備です。製造現場では古い設備と最新設備が混在しています。古い設備では紙の日報による手書き記録が続いており、最新設備ではPLC(Programmable Logic Controller:産業用制御機器)から容易にデータを取得できるものの、制御装置会社の仕様に縛られて、結果として工場全体を同一時間軸で比較することが困難な状況です。制御装置に依存しない後付けセンサーを検討しても「どのデータにどの様な意味があるのか」を明確にしなければセンサーの仕様を決めようがなく、データを取れない状況は変わりません。

二つ目は人という設備です。こちらの扱いはなかなか難しい。皆が同じ認識でデータを入力するには本コラムVol.3でも示した「言葉(単語)」の共通化は必須です。共通化してシステムに組み込めばキーボード入力ではなく選択入力が可能となりミスは減っていきます。

原因4:ICTの壁とコストの壁

多くの製造業でICTシステム導入が進まない背景の一つに、ICTスキルや知識を持つ従業員の不足があると良く耳にします。現場からは熟練工の勘や経験、人力の調整で現場を回してきた伝統的な企業風土を背景として「ITやパソコンにそこまで予算や人員を割く必要があるのか」という意識が残っているとも聞きますし、ICT人材採用の難しさやコスト負担に加え、ROI(投資対効果)の算出が難しいため経営層の認識と製造現場との価値観にギャップもあると思われます。過去何度かのICT化の波に乗り、現場の運用をそのままシステム化して「ICTコストは増大したが生産性は上がらず」という失敗を一度でも招くと、再チャレンジするには非常に高い壁が立ちはだかってきます。リアルタイムな進捗が判ることによる効果は非常に大きいと思います。その効果を客観的に表すために人という設備を含む全ての設備のリアルタイムな実績収集と、そのデータから算出される客観的な数字を活用してみてください。数字の単位を何にするかは各社の考え方ですが、金額(円)に換算することをお勧めしたいと思います。

原因5:データを分断する壁

この壁も二つあります。一つ目は仕組み(システムの考え方)そのもの。多くの製造業では部署単位でデータ管理が縦割りとなっているケースがあります。これは組織が大きくなるほど傾向が強いように思われます。製造設備は制御装置グループ単位でしか繋がらず、ましてや日々の製造状況を営業システムや設計システム、購買システムに反映し、スケジュールとも連携するようなシステムを運用している製造業は非常に少ないと想像しています。それぞれのシステムが単独で稼働し、データが繋がらず、チームは不完全または矛盾した情報を使って手作業でグラフを作成している。このようなデータの分断がリアルタイムな進捗把握を妨げる大きな原因の一つとなっていると思います。

もう一つの壁は、一気通貫の基盤となる標準化の欠如です。たとえデータが収集できたとしてもそのデータがどのような文脈で生まれたのかが分からなければ、真の意味で活用することは難しいでしょう。製造データにはオペレーターの活動や環境条件、プロセスの微妙な変化といった必要な文脈が欠けていることが多く、業務がどのように機能しているかという文脈の中でデータを検証する必要があります。機械、プロセス、人、製品がリアルタイムでどのように相互作用しているか、ある分野の変化が別の分野にどのように影響するかを把握することが必要です。製造全体に連なるBOM/BOPの整備と標準化を通してデータを一気通貫で管理することが、これらの解決につながるはずです。筆者はこの「データを分断する壁」が製造業にとって最大の壁と考えています。

原因は連動しており解決策はセットで行う

製造現場で「いま、何が、どこまで進んでいるのか」を阻む原因として五つの壁を挙げてみました。原因1と2は人という設備が対象であり、原因3の対象は製造設備、原因4と5はシステム作りの考え方であり、標準化の考え方です。それぞれで対応は違ってきますが個別で対策を考えてはいけません。これらの原因は連動しています。解決策は以下を1セットで行うことと筆者は考えています。

  • 設計~製造~検査~出荷に至る製造全般(可能ならば営業を含む)において運用できる部品表/製造工程表を整備・標準化する。
  • 設計~製造~検査~出荷に至る製造全般を対象に、人の実績データと設備の実績データを部品表/製造工程表に沿ってリアルタイムに収集する仕組みを構築する。
  • 収集した人の実績データと設備の実績データを統合し客観的な数字に換算し、グラフなど理解しやすいかたちに視覚化し、どこでも何時でも見える環境を構築する。特に製造現場のスタッフには操作しやすいデバイスと簡単なアクションで情報に辿り着ける仕組みを構築する。

読者の会社それぞれで製品構成、製造の流れ、設備原価の重みが違ってくるため詳細はここでは述べませんが、この三つを1セットで構築できれば五つの壁は越えられると考えています。

  • 製造業の工程管理 進捗管理
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まとめ

「なぜ製造業はリアルタイムな進捗が判らないのか」の解決策としてはリアルタイムにデータを収集しましょうと言うことになります。矛盾していますが前職ではこれにより壁を越えることができました。原因1では入力の難しさが背景であり、BOM/BOPが明確に定義されれば入力で迷うことは無くなります、いや、迷うようなBOM/BOPにしてはいけません。原因2はアナログであるが故の属人化です。デジタル入力が可能な標準化を進めて、その現場にあった入力方法を用意することです。原因3はIoT機器の出番ですがBOM/BOPの標準に合わせることがコツです。原因4はデータを客観的な数字に変換することでROIを明確にすること。原因5は標準化と一気通貫のデータ連携を目指した仕組み作りとなります。

などと言っても現実の製造現場では鉄粉が舞い、油が飛び、キーボード入力など面倒だとの声が聞こえ、などなどちょっとしたカオスだったりします。データ入力を人に依存することがリアルタイムな進捗が判らない背景の一つですが、本コラムVol.3でも示した通りリアルタイムな入力は人のムダ時間を減らします、どちらが先かと考える前に試してみることを強くお勧めします。昨今のICT技術は入力における課題を安価に取り除いてくれます、IoT機器、タブレット入力や音声入力など(シムトップス社の「i-Reporter」もその一つです)、入力手段は日々進化しており、いずれ手を使わず、もしくは人が特別なアクションをせずとも実績データを収集できるシステムが出てくるでしょう。その様なシステムが出てきたとしても標準化とデータ換算と見える化を準備しておくことに変わりはありません。今すぐにでも着手することを強くお勧めします。

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