MES(製造実行システム)とERPの違いとは?現場の工程管理を最適化する選び方
製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進において、システムの導入を検討する際によく耳にするのが「ERP」と「MES」という言葉です。どちらも製造業のデジタル化には欠かせないシステムですが、その役割や対象とする領域は異なります。
特に、不確実性の高い個別受注生産や多品種少量生産の現場では、自社の課題に合ったシステムを適切な順序で導入しなければ、現場の混乱を招く恐れがあります。
本記事では、製造業システムにおける「MES」と「ERP」の違いを比較・解説します。さらに、両者のデータ連携がもたらす価値や、中小製造業が失敗しないためのシステム選びのポイントについて解説します。
製造業のDXで注目される「MES」とは?
まずは、近年製造業のDXにおいて注目を集めている「MES」の基本について解説します。
MES(製造実行システム)の基本的な役割と目的
MESとは「Manufacturing Execution System」の略称で、日本では「製造実行システム」と呼ばれます。(なお、英語ではエム・イー・エスと読む方が正しく、“メス”という読み方では通用しにくいので注意が必要です)
MESは、製造現場における作業手順の指示、品質の管理、実績の収集などを担うシステムであり、現場の「人・設備・モノ」の動きをリアルタイムに把握・制御し、生産活動を最適化することを最大の目的としています。
英語の直訳である「製造実行システム」という名称が広く知られていますが、日本の製造現場の実態に照らし合わせると、「製造管理システム」や「工程管理システム」として捉えた方が、その役割をイメージしやすいでしょう。DXにおけるMESは、現場のアナログな情報をデジタル化し、データに基づいて生産活動全体を最適化・統制する基盤となっています。
MESが誕生した背景と3層モデル
製造業のシステムアーキテクチャを語る上で欠かせないのが、1990年代に米国の調査会社AMR Research社が提唱した、製造業の管理レイヤーを3つに分類する「3層モデル」です。
- 計画層:
統合基幹情報システム ERPが担当
- 実行層:
製造実行システム MESが担当
- 制御層:
制御システム 自動機や生産設備の制御装置が担当
MESは、計画層と制御層の間を埋めるための概念として生まれました。ERPで製造現場の設備群を自動制御しようとすると、ERPが扱う情報の粒度が粗すぎるため、物理的な製造現場を制御することが難しかったのです。しかし、日本の製造業では、製造現場が無人のロボットや自動機だけで構成されているケースは少なく、制御システムと連携している場合でも、その多くは自動倉庫や無人搬送車(AGV)などの「搬送・物流の自動化制御」に重点が置かれています。天井クレーンでモノを運ぶような大物設備の製造現場や、作業者を中心にモノづくりを行う企業では、制御システムとの連携事例が少なく、実績もあまり多くありません。
MESAの「MES11機能」と日本の製造現場のギャップ
一般的なMESの説明には、標準化団体MESAがリストアップした「MES 11の標準機能」(1996年公開)がしばしば多用されますが、日本の製造現場の実態や現在の時流に合っておらず、システム導入の際に混乱を招く原因となることが指摘されています。具体的な問題点や、実例として現れる弊害は以下の通りです。
要件定義の難航:MESAの11機能は、MESが上位のERP(統合基幹業務システム)の補完システムであることを前提に、「人・モノ(・カネ)」といった管理カテゴリーで構成されています。しかし、日本の製造現場では機能や役割ごとに部門が分かれていることが多く、製造部門にとって馴染みのない区分けとなっています。そのため、自社のどの業務がどの機能に当てはまるのかを整理・分類しにくく、RFP(提案依頼書)の作成が難航したり、システム導入ベンダーに要件が正しく伝わらなかったりするなどの問題が発生します。
内容の陳腐化:11機能が定義されたのは1990年代であり、内容自体が古くなっています。現在の複雑化した製造現場において、「全体像をどう構想し、どこまでをITシステム化すべきか」をこの11機能をベースに整理しようとすると、かえって困難になってしまいます。
実際の業務との不一致:11機能は概念としてのリストであるため、現在の製造現場で実際に日々行われている役割や具体的な業務プロセスと一致しておらず、現場担当者に混乱をもたらします。
解決に向けた最近の動き
このような背景から、現在では「MESAの11機能」に代わるものとして、日本の製造現場の一般的な部門名や直接・間接業務に合わせ、現場が理解しやすいように最大公約数的にカタログ化した「MES標準業務機能リスト」が、エンジニアリング協会などの国内の団体によって新たに策定・公開されています。
ERPとMESの違いとは?それぞれの役割を徹底比較
ERPは「経営視点」で企業資源を最適化するシステム
ERPは「Enterprise Resource Planning」の略称で、企業の持つ資金、人材、設備、資材といった経営資源を統合的に管理し、販売・購買・生産・在庫・会計などの業務効率化を図るための「統合基幹業務システム」のこと。
製造現場のシステムアーキテクチャ(3層モデル)においては、中長期の経営資源計画を担う最上位の「計画層」に位置づけられます。
MESは「現場視点」で製造工程を管理するシステム
一方、MESはあくまで「製造現場(実行層)」に特化したシステムです。
MESは、ERPシステムの「神経系」とも言えます。計画層の業務システムで作成された生産計画を生産現場のレベルに落としてMESに伝達し、逆に生産現場から集めた実績・進捗情報をMESから業務システムに報告することで、生産管理業務と生産現場の情報を滑らかにつなぐ役割を担います。
実際の運用に照らすと、MESは工場管理者レベルの業務を支援するシステムと考えるのが実態に近いでしょう。本社の管理者が工場管理者を代表して実行しているように見えても、実際には工場管理者は計画と評価を行い、ショップフロアの実行責任者が製造実施しています。本社からの指示情報は、工場管理者の計画作業を経て詳細なショップフロアへの指示情報となり、ショップからの報告情報は、工場管理者の評価作業を経て本社への報告情報となります。本社と工場管理者の管理サイクルの違いは、管理対象の持つ時定数の違い、すなわち時間刻みの違いにあります。
製造業においてERPとMESのデータ連携が重要な理由
「経営視点のERP」と「現場視点のMES」は、それぞれ独立して存在するツールではありません。互いのデータを連携させることで、初めて全社的な効果を発揮します。
詳細な実績データ収集による正確な製造原価の把握
ERP単体では、製品ごとの正確な製造コストを把握することは困難です。MESを通じて現場から収集した「実際の作業時間(直接労務費)」や「実際の材料消費量」といった緻密な実績データをERPにフィードバックすることで、机上の「標準原価」ではなく、現実に即した「実際原価」の算出が可能になります。これにより、精度の高い原価管理とコストダウン施策が実現します。
リアルタイムな進捗把握と納期回答の迅速化
現場の進捗状況(MESのデータ)が営業部門(ERP)に共有される連携基盤があれば、部門間の情報の分断が解消されます。
営業担当者は現場にわざわざ電話で確認しなくても、顧客からの納期に関する問い合わせに対して、システムの情報をもとにその場で「根拠ある納期回答」をしやすくなります。
経営層と製造現場のタイムラグを削減する迅速な意思決定
現場で歩留まりの低下や設備の突発停止などが発生した場合、その情報がMESを通じて経営層のデータ(ERP)に反映されます。
経営層は現場の実態をリアルタイムに近い形で把握できるため、設備投資の判断や生産計画の軌道修正といった、データに基づく意思決定を迅速に行うことが可能になります。
失敗しない製造業向けシステムの選び方
MESの導入にはいくつかの課題が存在します。製造現場は個別性が強く、ディスクリート型生産とプロセス型生産の間にも大きなギャップがあるため、どの産業にもフィットするような強力な汎用パッケージ商品が現れにくい特性があります。また、システムとしてのMESの導入や運用を担う部署が、本社の情報システム部門と工場の間で定まらず、生産技術部や製造部が片手間で運用することになりがちであるという問題も指摘されています。
製造業向けシステムを導入する際、自社に合わない製品を選んでしまうと、期待した投資効果が得られず失敗に終わるリスクが高まります。それを防ぐためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
自社の生産方式(個別受注生産・見込生産など)に適合させる
製造業と一口に言っても、生産方式によって管理のロジックは異なります。
例えば、量産(見込生産)向けのシステムはあらかじめ決まったBOM(部品表)を前提としています。しかし、毎回仕様が変わる個別受注生産の現場にそれを導入しようとすると、マスタ登録の作業が煩雑になり、運用が定着しない原因になります。
個別受注・多品種少量生産の企業であれば、BOP(製造プロセス情報)を都度柔軟に設定できる、自社の業態に特化したシステムを選ぶことが不可欠です。
現場の課題を洗い出し、システム化する業務範囲を明確にする
「何でもできる高機能なフルパッケージシステム」を選ぶのではなく、まずは自社が今抱えている一番の課題を明確にしましょう。
- 納期遅れが常態化している
- 正確な原価が不明確である
- 特急品が入り込んだ際の再計画ができない
こうした「現場の痛点」の解決に直結する機能に絞って、システムを選定すべきです。
個別受注生産の中小企業は「工程管理システム」の導入から
ここまで、ERPとMESの違いやシステム選びのポイントについて解説してきました。では、リソースに限りのある個別受注生産の中小企業は、具体的にどのようなステップでシステム化を進めるべきなのでしょうか。
結論から言えば、いきなり大規模なシステムを入れるのではなく、まずは現場の要となる「工程管理システム」の導入から始めるのが現実的です。
大規模なERPやMESの導入ハードルとよくある失敗
中小企業がいきなり全社横断的なフルパッケージのERPや大規模MESを導入しようとするのは、リスクが伴います。コストがかかるだけでなく、導入期間も長期化しがちです。
また、現場に対する入力要求項目が多すぎると現場の負荷が高まり、結果としてシステムが使われなくなってしまうケースも少なくありません。
まずは現場の生産計画と進捗の「可視化」から始める
個別受注生産の中小企業がまず取り組むべきは、属人的なExcelでの線表管理やホワイトボードから脱却し、「誰が・いつ・何を・どの設備でしているか」を可視化することです。
そのためには、現場の動きに直結し、計画と実績を繋ぐことに特化した「工程管理システム(生産スケジューラ+進捗管理)」の導入から始めるアプローチが適しています。
無理のないスモールスタートで現場にシステムを定着させる
システム導入を成功させる重要なポイントは、「現場が継続して使えること」です。タブレット端末などを用いて、現場の作業者が少ない手間で実績を入力できるシステムを選ぶことが重要です。
まずは工程管理システムからスモールスタートして、現場にデジタル化を定着させましょう。確かな実績データが取れるようになった段階で、ERPなどの上位システムへと連携を広げていくステップを踏むことが推奨されます。
まとめ
製造業における「ERP」は経営資源の全体最適を担うシステムであり、「MES」は現場の実行を管理するシステムです。両者の役割を正しく理解し、互いのデータを連携させることで、正確な原価把握や納期回答の迅速化といった相乗効果が生まれます。
特に多品種少量生産や個別受注生産を行う中小製造業においては、いきなり大規模なシステムを導入するのではなく、現場の課題解決に直結する「工程管理システム(生産スケジューラ)」からスモールスタートすることが成功の秘訣です。
自社の生産方式に合ったツールを選び、無理無く現場の「見える化」を進めることが、製造業DXを前進させる着実な第一歩となります。