製造業の生産形態を大きく分けると、「量産型生産(マスプロダクション、英:Mass Production)(繰り返し生産、見込み生産も量産型)」と「個別受注生産・多品種少量生産」に分類されます。量産型は家電や、食品、電子部品のように同じ製品を大量に生産する方式である一方、個別受注生産や多品種少量生産は、顧客のニーズに応じて多様な製品を少量ずつ生産する方式です。近年、製造業の現場では顧客ニーズの多様化や市場変化のスピードが増しており、量産型よりも柔軟な対応が求められるケースが増えています。さらに、量産に不可欠な工場で使用される設備や、量産前の試作品などは、個別受注生産や多品種少量生産です。
しかし、個別受注や多品種少量の体制をとると、工程の複雑化や管理の煩雑化といった課題も同時に生じます。本記事では、「個別受注生産」と「多品種少量生産」の特徴とメリット・デメリットを整理し、なぜ工程管理や生産スケジューリングが重要になるのかを理解できるように解説します。次回以降の記事につながる「基礎知識の第一歩」として、まずはこの2つの生産形態の違いをしっかり押さえておきましょう。
生産形態の分類とは
製造業における生産形態は、一般的に以下のように分類されます。
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量産型生産(繰り返し生産、見込み生産)

同じ製品を大量に作る方式。規模の経済が働き、コストを低減しやすい。
例:家電製品、食品、電子部品など。 -
個別受注生産・多品種少量生産

顧客ごとの注文やニーズに応じて、多様な製品を少量ずつ作る方式。柔軟性が高い一方で、計画や工程の管理が難しい。
例:産業機械、試作品、医療機器など。
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生産が先
見込み生産
- 受注前に生産を行う。
- 製品在庫を持つ必要がある。
- 製品在庫から顧客へ販売するので、
すばやく製品が提供可能。 - 同じ製品をある一定量繰り返し生産する。
-
受注が先
受注生産
- 顧客の注文を受けてから生産を行う。
- 顧客のニーズを満たす製品提供が可能。
- 買い置き品である資材以外の在庫は原則的に持つ必要がない。
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量産型生産(繰り返し生産、見込み生産)

同じ製品を大量に作る方式。規模の経済が働き、コストを低減しやすい。
例:家電製品、食品、電子部品など。 -
生産が先
見込み生産
- 受注前に生産を行う。
- 製品在庫を持つ必要がある。
- 製品在庫から顧客へ販売するので、
すばやく製品が提供可能。 - 同じ製品をある一定量繰り返し生産する。
-
個別受注生産・多品種少量生産

顧客ごとの注文やニーズに応じて、多様な製品を少量ずつ作る方式。柔軟性が高い一方で、計画や工程の管理が難しい。
例:産業機械、試作品、医療機器など。 -
受注が先
受注生産
- 顧客の注文を受けてから生産を行う。
- 顧客のニーズを満たす製品提供が可能。
- 買い置き品である資材以外の在庫は原則的に持つ必要がない。
受注タイミングと生産(製造)リードタイムの分類で生産形態を分類すると以下のようになります。
受注生産はさらに
- 「受注設計生産(ETO:Engineer To Order)」:受注後に顧客の希望する設計や大規模なカスタマイズを行う生産方式
- 「受注生産(MTO:Make To Order)」:原材料は在庫として用意しておき、受注後に製品の生産を開始する生産方式
- 「受注組立生産(ATO:Assemble To Order)」:部品を在庫として保持し、注文に応じて最終組み立てや加工を行う生産方式
に細分化されます。
このうち、本記事では「個別受注生産」と「多品種少量生産」に焦点を当て、それぞれの特徴を解説していきます。
個別受注生産の特徴
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メリット

- 顧客の要望に応じた製品が作れるため、柔軟性が高い
- 単価が高く、利益率の向上につながりやすい
- 顧客との関係性を深めやすく、リピート受注につながる可能性がある
- 付加価値の高い特殊製品を扱える
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デメリット

- 生産リードタイムが長くなりやすい
- 設計・調達・製造の工程が毎回異なるため、標準化が難しい
- 工程管理の難易度が高く、品質管理や納期管理のリスクが増える
- 生産コストが安定しにくい
個別受注生産は、一つひとつの案件ごとに異なるプロセスを必要とするため、管理の精度とスピードが重要になります。
特に近年は、顧客が短納期を求める傾向が強まっており、従来のやり方では対応しきれないケースも増えています。
量産型生産との管理手法の違い
量産型生産(繰り返し生産、見込み生産も含む)では、品番(ひんばん、型番と品番は親子関係となります)単位で、月産n台という計画をもとに生産を行います。生産ラインでは、日々同じ物を作り続けることになるため、日々の生産台数の目標値に対する出来高管理を行います。
一方、個別受注生産・多品種少量生産では、品番ではなく、製番(せいばん、製造番号、シリアルナンバー、機番、号機で管理されます)単位となります。製番管理(せいばんかんり、英:Order Control)は、製番単位でそれぞれ納期が設定されます。製番ごとに1台や数台しか生産しないため、生産台数の管理では無く、作業工程単位に作業の進捗管理(しんちょくかんり、英:Progress management)を行う必要があります。
多品種少量生産の特徴
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メリット

- 多様化する市場ニーズに迅速に対応できる
- 特定顧客や小規模な市場をターゲットにできる
- 単一製品依存のリスクを分散できる
- 小ロット生産のため在庫リスクを抑えやすい
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デメリット

- 頻繁な段取り替えが必要になり、生産効率が低下しやすい
- 標準化が進みにくく、管理の複雑性が高まる
- 小ロット対応のため、原価が高くなりやすい
- 計画(目標)工数との予測誤差や計画変更、仕様変更などの影響を受けやすい
多品種少量生産は、市場環境が不確実な現代において重要性を増していますが、同時に生産計画の立案や進捗管理が極めて難しくなります。そのため、Excelなど従来の管理手法では限界が生じやすく、新しい仕組みやツールの導入が必要となるのです。
個別受注生産と多品種少量生産に共通する課題
ここまでで両者の特徴を見てきましたが、共通して存在する課題もあります。
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工程管理の煩雑化

個別性や小ロット対応によって工程が都度変化し、進捗の見える化が難しい。
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納期遵守の難しさ

顧客要求により工程計画や工数が頻繁に変更されるため進捗管理が難しくなり、結果として納期遅延が発生しやすく、信頼性も低下する。
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属人化のリスク

管理やコントロールは、経験豊富な担当者に依存しがちで、担当が変わると管理が破綻する。
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コストの安定性不足

生産の変動が大きいため、計画と実績に乖離が出やすい。
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Excel管理の限界

管理対象の複雑さが増大すると、Excelによる計画の更新・修正は手作業の限界を超え、データの一貫性担保と計画立案の工数が爆発的に増加します。

これらの課題は、特に中小製造業にとって大きな経営リスクとなります。生産の現場で抱える問題が放置されると、納期遅延や品質問題に直結し、取引先との関係性にも悪影響を及ぼしかねません。
なぜ工程管理が重要なのか
個別受注生産・多品種少量生産の現場では、日々の判断が企業の競争力を左右します。そのため、工程管理の重要性は非常に高いのです。以下に工程管理の主な目的を列挙します。
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納期を守るため

顧客の信頼を得る最大の条件は「約束通りの納期」を守ることです。納期を守るためには、工程の消化率ではなく、工程単位、部品単位、オーダー単位の計画に対する遅れや進みを見える化する進捗管理が必要です。
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品質を安定させるため

作業手順や管理項目が毎回違うため、測定、計測などの品質チェック項目が多くなります。SOP(標準作業手順書、英:Standard Operating Procedures )などの作業指示と連動した工程管理の仕組みが必要です。
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コストを抑えるため

段取り替えや買い置き品などの余剰在庫はコスト増につながります。工程管理は、無駄を見える化し、最適化するための基盤です。
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経営判断を支えるため

月次の売上や受注状況、負荷状況など納期遅延リスクを正確に把握できれば、経営層は安心して判断を下すことができます。工程管理は、単なる現場の作業管理ではなく、経営の意思決定を支える存在なのです。
まとめ
個別受注生産と多品種少量生産は、現代の製造業に欠かせない形態であり、市場の多様化に対応する柔軟性を持っています。しかし、その一方で、工程の複雑さや属人化、コストの不安定さといった課題がつきまといます。
これらの課題を放置すれば、生産現場の効率は低下し、納期遅延や品質問題といった深刻なリスクにつながります。だからこそ、工程管理を正しく理解し、仕組み化していくことが不可欠なのです。
今回の記事では「個別受注生産や多品種少量生産では、なぜ工程管理が難しくなるのか?」という疑問が出てきたかと思います。次回の記事では、「工程管理とは何か?」をテーマに、より具体的に工程管理の役割と重要性を解説していきます。
次の記事
定義編第2回
工程管理とは?基礎から理解する
FAQ(よくある質問)
- Q個別受注生産と多品種少量生産は同じですか?
- いいえ。個別受注生産は案件ごとに仕様が異なり、多品種少量生産は小ロットで多様な製品を並行して作る方式です。
- Qなぜ個別受注生産では工程管理が難しいのですか?
- 製品ごとに工程や段取りが異なるため、標準化しにくく、繰返し性が無いため、計画工数予測も難しいからです。さらに、産業機械や生産設備など、顧客要求を満たすための初期流動(製品量産前の初期段階で、設計上の見落としや大量生産で初めて顕在化する問題点を早期に発見し、品質や生産性を安定させる)の調整により設計変更や、仕様変更への対応など、製造中でも、作業手順の追加や作業工数の変更などが発生します。
- Q個別受注生産や多品種少量生産の工程管理では、なぜExcelでの管理に限界があるのですか?
- Excelを使用した工程表は、オーダー別・部品別・工程単位といった納期余裕などの数値指標が十分に管理されていない場合が多く、進捗状況の適切な反映が困難になります。また、再計画や再計算が煩雑になりやすく、マクロや関数に依存することで属人化が進み、結果として信頼性を十分に担保できないためです。
- Qどんな業界で個別受注生産や多品種少量生産が多いですか?
- 個別受注生産や多品種少量生産が多い業界としては、機械装置・産業機械、精密機器、電子部品、医療機器、自動車部品、金型、試作開発分野などが挙げられます。顧客ごとの仕様や用途に応じたカスタマイズ対応が求められるため、製品バリエーションが増えやすく、生産数量は比較的少量になる傾向があります。
参考文献
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加藤 昭吉『計画の科学 ― どこでも使えるPERT・CPM』(ブルーバックス)新書
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手島 歩三『「気配り生産」システム ― ポストJIT/MRPの新生産戦略』
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中嶋秀隆『PM プロジェクト・マネジメント』
-
佐藤知一『革新的生産スケジューリング入門』
-
西岡靖之『APS 先進的スケジューリングで生産の全体最適を目指せ!』
-
芝尾芳昭『プロジェクトマネジメント革新』
-
藤本隆宏『ものづくり経営学』
-
中野一夫/西岡靖之『生き残るための生産管理マネジメント PRACTICAL PRODUCTION CONTROL ~A Survival Guide for Planners and Schedulers』
-
佐藤知一/山崎誠『図解でわかる生産の実務 BOM/部品表入門』
-
藤本隆宏『日本のもの造り哲学』
-
成沢俊子 with John Snook『英語でkaizen!トヨタ生産方式 第2版』
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赤池弘次・伊理正夫・茨木俊秀・腰塚武志・小島政和・福島雅夫・森戸晋・逆瀬川浩孝・木村英紀・深谷賢治・鈴木敦夫・藤原祥裕・田村明久・久保幹雄・松井知己『シリーズ:最適化モデリング1 モデリング ― 広い視野を求めて ―』
-
山下浩・蒲地政文・畔上秀幸・斉藤努・枇々木規雄・滝根哲哉・金森敬文『シリーズ:最適化モデリング5 モデリングの諸相 ― ORと数理科学の交叉点 ―』
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池上敦子『シリーズ:最適化モデリング3 ナース・スケジューリング ― 問題把握とモデリング ―』
-
西岡靖之『スマートシンキングで進める工場変革 つながる製造業の現場改善とITカイゼン』
-
岩永二郎・石原響太・西村直街・田中一街『Pythonではじめる数理最適化』
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仁科健『統計的工程管理』
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前田和哉『図解即戦力 PMBOK第7版の知識と手法がこれ1冊でしっかりわかる教科書』
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中根甚一郎『統合化MRPシステム』
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三河進『図解DX時代のPLM/BOMプロセス改善入門』
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サニー・ベーカー+キム・ベーカー+G.マイケル・キャンベル『世界一わかりやすいプロジェクトマネジメント』(訳者 中嶋秀隆+香月秀文)
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エリヤフ・ゴールドラット『ザ・ゴール』(翻訳 三本木 亮)
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エリヤフ・ゴールドラット『クリティカルチェーン』(翻訳 三本木 亮)
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- 解決編
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第6回
生産スケジューラで解決できる課題
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第7回
有限負荷スケジューリングの仕組み
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突発対応と再スケジューリングの重要性
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第9回
ERP・MESと生産スケジューラの違い
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- 導入編
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生産スケジューラ導入で得られる効果
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導入失敗を防ぐためのチェックリスト
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導入ステップと補助金活用
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第13回
業種別の導入成功事例
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