工程管理研究所
いとう君が日々の残業から抜け出すために工夫した結果、製造工程の大幅な改善に結び付き、最終的にコスト・リードタイムともに半分近くまで削減していく汗と涙の青春物語!
前回は会社で昔行っていた進捗管理方法をヒアリングし、カイゼン点を考えてみました。
登場人物紹介
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いとう君
目黒製作所の生産統括課で、新人教育や業務改善、作業の進捗管理をしている新米班長。努力と根性で様々なトラブルを解決してきたものの、そろそろ根本的な業務効率化を進めたいと頭を悩ます27歳。
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齊藤さん
いとう君の親友。いとう君は彼女だと思っている。システム開発会社勤務。行動力と実行力に長けている。いとう君は、彼女が具体的にどのような仕事をしているのか実は理解していない。
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鈴木さん
いとう君の上司。設備機器事業本部 圧力容器製造部 生産統括課課長。面倒見は良いが社内では製造現場が強いため、社内的にはどこか頼りないと思われている。
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佐藤さん
目黒製作所の設備機器事業本部 圧力容器製造部 生産統括課試験課課長。声が大きく、強面だが、意外と、丁寧に現場の作業内容を教えてくれる。
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田中さん
目黒製作所の設備機器事業本部 圧力容器製造部 生産統括課製缶課課長。製造現場のリーダー的な存在。
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守衛さん
目黒製作所の守衛。いとう君が残業が多いため、退勤時になにかと声を掛けられ、顔見知り。
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高橋君
設備機器事業本部 バルブ製造部工務課。いとう君の同期。生産管理担当。
あらすじ
彼女に、計画の基本である、PERTチャートの書き方を教えてもらい、計画の基本から教えてもらいます。
#10 PERT計算
相変わらずの残業続きで、気づけばもう週末です。部屋はだいぶ片付きましたが、洗濯物がまだたくさん残っています。
さすがに夜中に洗濯するのは避けようと思い、ふと近所にコインランドリーがあることを思い出しました。
シーツや布団カバー、玄関マットなど大物をバッグに詰めて出かけました。
洗濯機がぐるぐる回るのを眺めてぼーっとしていると、昨日描いたネットワーク図が頭に浮かび、急に齊藤さんの話を思い出しました。
そういえば、齊藤さんは「パートの図は難しいので、まずは違う方法を試してみよう」と言っていたなぁ。あー、メモしておけば良かった…。
その日の朝、早起きして掃除と洗濯を済ませました。テレビもないし、ゲームもやらないので、最近購入した分厚い本『水源』を読もうとしましたが、意外と集中できません。どうせ落ち着かないし…。
綺麗になった台所を眺めながら、そういえばイライラしているときは料理だったなと思い出し。
今日は少しドキドキしていますが、ブイヤベースは時間がかかるのでカレーでも作ったら、ちょっとは株が上がるかな!と思い、カレーを作り始めました。
そして、時間通りに彼女がやってきました。
齊藤さん
おじゃまします。
はい、どうぞ。
いとう君
齊藤さん
あれー、綺麗だね。
あ、そうなんだよ。
昨日まで毎晩掃除したり台所磨いたり。
頑張りました。
いとう君
齊藤さん
はは。
へー、テレビないんだ。
文化的生活ってヤツね。
あ、昔友達にも言われたけど、意味分からないんだよね。
いとう君
齊藤さん
テレビを見て、時間を潰さない、時間を浪費しない。
その時間を読書や勉強や趣味に使う。
ってことだよ。
私は、テレビ持ってるけどね。
まあ、ビデオを借りてきて映画を見るのが趣味なので、テレビ番組は見ないけどね。
そして、この匂い!
カレー?
そうです。
趣味みたいなものだね。
いとう君
齊藤さん
へえ~どれどれ。
市販のカレー粉じゃないんだよ。
ちょっと自慢なんだけどね。
辛いの大丈夫だったよね。
いとう君
齊藤さん
うん。
また惚れた!
はは!
じゃあ、後でゆっくりと頂きます。
まずは、ネットワーク図だよね。
彼女が、本棚を指さし。
齊藤さん
あれ「計画の科学」読んだの?
そうなんだよ。
PERTの本を探してたら、これがあって。
いとう君
齊藤さん
私も会社にあったので、ちょっと開いて見たことあるけど、名著というか、古典だよ。
難しかったでしょ。
半分ぐらい分からなかったけど、取り敢えずこの本を読んでネットワークを描いてみたんだよ。
でも会社では、前に見せたExcelの日程表と、詳細に関しては作業手順書があるので、作業の流れをこんな感じでネットワークで描いたものはないんだよ。
昔はホストコンピュータで印刷したパート図があったらしいんだけど、何十年も前だって。
で、これを描いていたら、前に言われたネットワーク図は難しいからね。
って、思い出して。
いとう君
齊藤さん
了解、そうだね。
まず、これはお土産ね。
例のトヨタ博物館で売っている本。
カイゼンの元ネタです。
さて、まずは、パート図入門です。
ということで、唐突に講義が始まりました。
彼女は、持ってきたスケッチブックを取り出し、私の描いた図を写し始めました。
齊藤さん
まずは、これが古典的なパート図で、パートチャートと呼ばれています。
いとう君が描いたものは、アローダイヤグラムとイベントダイヤグラムでしょ。
両方共にパートチャートなんだけど、厳密には描き方が違うということは分かっているよね。
はい。そこは勉強したので。
アローダイヤグラムっていうのか!
アローダイヤグラムは、ノードと呼ばれる◯を描いて、その◯を繋ぐ矢印が作業で、イベント型は、枠の中に作業を描いて、作業間の前後の制約を矢印で表す。
だよね。
そして、両方共に作業には工数が必要で、この工数をネットワークを辿って順番に足していって、最早(さいそう)とか最遅(さいち)とかを計算する。
で合ってるかな。
いとう君
齊藤さん
はい、正解です。
アロー型ネットワーク図は、アローダイヤグラムと呼びます。
イベント型ネットワーク図は、イベントダイヤグラムと呼びます。
アローダイヤグラムは、アローって矢印のことなんだけど、この矢印でアクティビティを表現します。
イベントダイヤグラムは、イベントの名称のとおりこのイベントでアクティビティを表現します。
アクティビティは、管理したい作業のことです。
ネットとかにはタスクとか書いてあるけど、だれが最初にいったのか分からないけど、タスクではないの。
あの計画の科学でもアクティビティと書いてあったので、そこは分かるけど。
なんでネット上はタスクって言うんだろうって思ってたよ。
いとう君
齊藤さん
ネット上に書かれていることは、たいてい、どっかのコピーの使い回しで表現変えているだけだから、ちゃんと原著や古典を読んでないから、勉強不足のままネットから拾い集めた情報で書かれていることが多くて、変な単語がそのまま広まっちゃうのよ。
うちの会社では「ネット上の情報を鵜呑みにしてはダメ」って言われてる。
まずは古典を読んで、もし難しかったらネットで調べて補足し、その後もう一度原著や古典に戻って理解するようにって教えられているんだよね。
だから、プロジェクト管理やパート図の説明でタスクとか書いてあるページは信用しないことだね。
アローダイヤグラムは、アローって矢印のことなんだけど、この矢印でアクティビティを表現します。
齊藤さん
イベントダイヤグラムは、イベントの名称のとおりこのイベントでアクティビティを表現します。
齊藤さん
さて、そこで。
今はガントチャートも簡単に書けるソフトがいっぱいあって、有名なものはMS-Projectね。
そして、ガントチャートはイベント型と似てるよね。
なので、わざわざめんどくさいアローダイヤグラムは忘れて、イベントダイヤグラムで描いた方が後でガントチャートにつながるでしょ。
で、これね。
今度は鞄からノートパソコンを取り出し、立上げ始めました。
齊藤さん
いとう君のために無料で使えるガントチャート作成ソフトを探したんだけれど、どれもいまいちで、まあ有料のものはそこそこ良くできているものもあるんだけどね。
だったら、まずはこれかなって。
私の会社では、みんなこれを使ってお客様とプロジェクトの進捗管理をやってるの。
あと、海外のお客様はPrimaveraかMS-Projectで計画表を提示というのが基本で、Excelで計画表なんか出したら笑われるからね!
その、MS-ProjectもPrimaveraも聞いたことがあるよ。
いとう君
齊藤さん
いとう君の会社は、海外案件はないの?
あるんだけど、製造会社なので、海外案件はお客様とうちの間にエンジニアリング会社がいて、そのエンジニアリング会社はお客様に計画表とかをMS-ProjectやPrimaveraで出していると思う。
うちは毎週Excelでエンジニアリング会社へ進捗報告してるけどね。
いとう君
齊藤さん
そうか。
まずは、このソフトを使う前に時間計算の話をするね。
あ、時間計算というのは、PERT(パート)計算のことで、最早、最遅とフロートやクリティカルパスを計算することで。
はい、これも図解するね。
図解できないのに言葉で説明しているページも信用できないって言われてるのよ。
最早、最遅とかトータルフロートとか、フリーフロートとかね。
アローダイヤグラムのアローとイベントダイヤグラムのネットワークコンストレイントは、共に先行作業と後続作業の作業手順の制約を規定するのね。
さっきの図の場合には、共に矢印の向きも重要で、矢印の基点の先行作業が終了しないと矢印の終点(矢印が向いている先)の後続作業は開始できないという制約で、SF(Start to Finish)という制約なのね。
その他にはSS(Start to Start)などの制約もあって、簡単に図示するとこんなイメージなの。
はい、ここまでは理解できます。
いとう君
齊藤さん
ある特定のオーダー(製番)の作業手順がこの図のように3工程あり、順番に作業を行うと思って!
この図は、左が過去で、右が未来ね。
左から右にガントチャートのように表現してるよ。
そして、この図のオーダーには、左側に受注日や材料入荷日などの作業を開始できる「開始可能日」としての日程制約が設定されていて、右側には「納期」が設定されています。
齊藤さん
各作業工程毎に設定されている稼働時間帯を考慮して、開始可能日からもっとも早く開始できる日を計算した結果を、各作業工程の最早開始日時、最早終了日時と呼んで、この図は「最早開始日時、最早開始時刻( Earliest Start Time 、ES)」の計算された結果位置(イメージ図)ね。
齊藤さん
この図は、「最遅終了日時、最遅終了時刻( Latest Finish Time、LF)」の計算された結果位置(イメージ図)ね。
齊藤さん
最早開始日時から最遅開始日までの期間をフロートと呼んで、このフロートを消費(遅延)しても、納期に影響を与えない期間を指すのよ。
フロートは、ゆとり時間というんだって!
齊藤さん
そして、最終工程と納期までのフロートはトータルフロートと呼んで、いわゆる納期余裕時間ね。
齊藤さん
さて、ここで作業が直線ではなく、分岐や合流があるとちょっと難しくなって、同じように、最早や最遅が計算できるんだけど。
齊藤さん
ここで、赤く塗った作業の経路をクリティカルパスと呼びます!
日本語では、隘路(あいろ)って言うんだけどね。
齊藤さん
クリティカルパス上にある作業工程は、納期に直接影響を与える作業です。
つまりこの赤い作業が遅れると、最終工程も玉突きで遅れるよね。
なので、リードタイム短縮を行うためには、このクリティカルパス上にある作業工程の各リードタイム短縮を行う必要があるし、この図の「工程2」は、ちょっと遅れても大勢に影響しないよね。
さらに、この「工程2」は「工程4」の開始までに遅れたりしても、どこにも影響がないので、この「工程2」の終了日(最早終了日時)から「工程4」の開始日(最早開始日時)までの期間をフリーフロートって呼ぶのね。
齊藤さん
ほら、当たり前だけど、「工程3」をずらせば「工程4」に影響するよね。
齊藤さん
まあ、この図ぐらいならいいけど、これが実際の工程表を描いて、最早、最遅とか計算すると大変だよね。
そこで、これです。
じゃあ、まずはこのソフトのパートチャートにアクティビティを登録して、工数を入力して、ネットワークの線を引いて、
齊藤さん
ほらね。
このプロジェクトの開始日と納期を設定して、ガントチャート表示に切り替えて、すぐに時間計算されるでしょ。
齊藤さん
ほら、「工程3」の最早、最遅も画面ですぐに分かるし、
齊藤さん
こうやって画面で見たら、「工程2」は半日遅れても「工程4」に影響ないよね、ってことも見れば分かるでしょ。
いいね、それ。
いとう君
齊藤さん
パートとか時間計算とか、こうやってツールを使えば簡単でしょ。
今時、Excelで描いたガントチャートなんて、どうかしてるよね。
やっぱり、ツールが必要かなあ。
いとう君
齊藤さん
まあ、ツールは、ピンキリだからね。
まずは、お腹空いたな。
ちょっと片付けるね。
彼女はおもむろに鞄の上にノートパソコンやスケッチブックを置き、机の上を片付け始めました。
なんか、その鞄、結構ほかにも荷物がいっぱい入っているね。
いとう君
齊藤さん
そう、着替えよ。
まあ、こんな機会というか、ゆっくりして行ってもいいかなって、付き合ってだいぶ経つしね。
さて、
さらっというね。
いとう君
齊藤さん
まあね。
さっき、意思表示したよ。
うん、さらっと言ってたね。
ちゃんと聞いてたよ。
いとう君
齊藤さん
カレー食べたい!
ビールとかもあるの?
うん、なんでもあるよ。
いとう君
ということで、以降本文の趣旨から逸脱する部分は割愛させて頂きます。
さて、次回は、いよいよツールとかの話をします。
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工程管理のビギナーズガイド資料
「 製造業の工程管理 」
生産形態による管理の違い
業務効率化のカギは「工程管理」
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